クリスマス・イブ

去年の今頃の話。
 
北の街の歓楽街の地下にある某ジャズバーに、ピアノが弾ける社会の先生と一緒に行った。
そこのバーはあまり客は入っているとは言えず、ある意味自由な雰囲気だった。
カウンターの中には男性と女性が1人づつ。
女性はどこかで見たことがある。
彼女は覚えたての珈琲を落としている。
 
店の中にはグランドピアノが1台あって、 弾く人はいなくほったらかし。
そこで社会の先生は、『クリスマス・イブ(山下達郎)』『トルコ行進曲』『正露丸のCM』
・・・最後には『帝都駅の中央線の発車ベル』なんて弾き始めた。
耳コピーできる奴なので曲を知っていれば弾けるのである。
変な才能。
本人は『小さい頃から弾かされて、男でピアノ弾けるのでいじめの対象になった』そう。
 
私は「来年のクリスマスにこのピアノで『戦場のメリークリスマス』を弾いて」っていった。
彼は「いいよ。でも練習させて。」
 
彼はもう練習する必要はなくなった。
その店は2ヵ月後に閉店してしまいましたとさ。
 
聞きたかったな。
あの空間で。